環境情報学部 准教授 政策・メディア研究科委員 巴山 竜来
専門分野:数学(複素幾何学),デザイン・アートへの数学の応用
数学のリー群と呼ばれる理論について研究してきました。大学の1年次では線形代数を学びますが、「長さを保つ」や「行列式が1」といった性質を持つ行列を集めてきたものがリー群です。これは図形の変換としての性質を持ちつつ、それ自体が幾何学的な性質を持っており、代数・幾何・解析が交差する数学では非常に重要な研究対象です。
一方、それとは別にコンピュータグラフィックス(CG)を通じた数学のアート・デザインへの応用研究にも取り組んできました。CGは数学とも親和性の高い分野であり、さまざまな数学がCGでは駆使されています。例えば先に挙げたリー群は、形状の変形や動きを表現する際に使われます。これまでに寺院の改修事業や西陣織の研究開発、アーティスト・デザイナーとの協作などにも携わってきました。
xMath: 数学からつくる
- 研究会の活動 -
私は大学・大学院を通じて、オーソドックスな数学の教育を受けてきました。数学は基本的に積み上げ式の学問であり、古代ギリシャから連なる先人たちの轍を辿って、大学院修士頃にようやく研究するための準備が整うような学問分野です。数学科のゼミでは本や論文を精密に理解することが求められ、1ページの証明を理解するために黒板の前で何時間もかけて議論することも頻繁にあります(そして理解できずに考え続けることもしばしば...)。また数学は基本的に個人プレーで研究することが多く、仙人が瞑想して深い精神世界に入り込むように、数学者も数学に没入することでその世界を掘り下げます。数学者のエピソードに浮世離れしたものが多いのも、超人間的な数学の世界への没入によるものです。
このような伝統的な歴史の上で成り立つ「数学のための数学」と、工学や情報科学などテクノロジーに応用する「使うための数学」には一般に大きな隔たりがあります。私の研究会はこの2つをつなげて、「数学からつくる」ことをミッションとしています。現代の高度に抽象化した数学は「つくること」との接点を見出すことが難しくなりつつありますが、その中に眠っている新しい可能性を掘り起こし、コンピュータを使って数学理論を実装します。これを表すキーワードとしてxMathを掲げています。これは政策・メディア研究科の研究領域の1つXD(エクス・デザイン)から由来しており、xが含む未知、極端、実験、横断、表現を数学から実現することを目的としています。
理論と実装の両立を目指す
- 研究会の特色・学生へのメッセージ -
SFCはとてもユニークな場所であり、独学で数学を学んで数学科の大学院に進学するような数学力の高い学生とメディアアートの現場で在学中から活躍するような技術力・表現力の高い学生が混在しています。この2つのタイプの学生は普段あまり交わりがないように見えるのですが、うまくクロスして新しい何かが創出されるような場を研究会では生み出したいと考えています。まだ2年目の研究会で、なおかつ数学科のゼミしか経験していない私にとっては手探りの状態ですが、これから学生さんたちと一緒に研究会のかたちをつくっていきたいと考えています。


研究会ではこれまでに画家の山本雄基さんとのコラボレーションを行い、ゲームエンジンのUNITYを使って3DCGを使った絵画制作システムを開発しました( 実装: 田中玲央)。この成果物は巴山研究室との協作として学外のギャラリーで展示されました。その他にも、本の輪講や論文のサーベイ、3DCGソフトウェアの勉強会も行ってきました。2025年度春学期は10月に行われる学内のギャラリー展示に向けて研究開発を進めています。研究室のメンバーはプロ並みに3DCGソフトウェアを使いこなせる学生が多く、半学半教の教えに則って、私も彼らから多くのことを学んでいます。数学をものづくりや創作につなげることに興味がある人を待っています!

環境情報学部 准教授 政策・メディア研究科委員 巴山 竜来 教員プロフィール